東京高等裁判所 昭和34年(う)1269号 判決 1960年2月22日
被告人 曾根清市 外一名
主文
本件控訴はいずれもこれを棄却する。
理由
被告人初夫に対する事実誤認の控訴趣意について
所論は、要するに、被告人初夫は本件工場の従業員であり労働者に過ぎないものであるにも拘らず、原判決は同被告人を使用者と認定したのであるから、事実誤認であると主張するのである。
よつて検討するに、原判決の証拠説明一及び三に引用の各証拠によれば、被告人初夫は被告人清市の長男であるが、右清市の経営する原判示工場において、主として外交方面を担当する父清市に代つて、同工場の事務及び作業の一切を指揮監督し、予定生産量を定め且つ作業計画を樹立して工員の作業につき総括的指示を与えていたことが認められるから、被告人初夫は労働基準法第十条所定中、事業主ではないが、事業の経営担当者、または、少くとも事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者として使用者に該当するものであつたことは明らかであり、そしてたとえ被告人初夫が同被告人の検事に対する供述調書により認められるように一定の給料の支払を受けて被告人清市に雇われている同工場の従業員であり、同法第九条にいう労働者であつたとしても、被告人初夫が同時に叙上趣旨において使用者であることを妨げないことは論を俟たないところである。その他原判決認定の事実は引用の各証拠によりすべてこれを肯認するに足り、記録を調べてみても原判決に事実誤認の疑は存しない。ひつきよう所論は独自の見解に基いて法律解釈をこころみるものか、または証拠の取捨判断に対する原審の専権を非難するに帰し、採用し得ないところである。論旨は理由がない。
被告人清市に対する量刑不当の控訴趣意について
所論にかんがみ記録を精査しこれに現われた同被告人の年令、経歴及び本件犯行の動機、態様、工場の規模、犯罪後の事情その他一切の情状を考慮すれば、原判決の量刑は相当であり重過ぎるものとは誤められないから、論旨は理由がない。
よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴はいずれもこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 長谷川成二 白河六郎 関重夫)